26.列車の転覆はなぜ起きる? 曲線の制限速度、カント、緩和曲線との関係は?

  平成17年4月25日 JR福知山線(宝塚線)塚口〜尼崎間の下り線右カーブでJR西日本の207系直流通勤電車が脱線、転覆し、大勢の犠牲者が出ました。国土交通省航空・鉄道事故調査委員会が原因の究明を続けています。
  日比谷線の脱線事故は曲線出口を低速度で走行している際に起こった乗り上がり脱線でしたが、今回の事故は高速のまま曲線区間に入ったため過大な遠心力が発生して横転したと言われており、曲線部での速度超過を防止するためのATS緊急整備等の対策が行われています。
  列車の脱線転覆が曲線部の速度超過によって起こったとすれば、どのような場合に転覆に至るのか、曲線部の通過速度はどう決めているのか、カント、緩和曲線とは何か、これらと曲線の半径、列車速度との関係はどうなっているのか見てみます。

1. 曲線通過時の列車の転覆

(1) 転覆の基本式

  交差点などを自転車で曲がる時には遠心力が働くため、外側に倒れないように体を内側に傾けますが、鉄道でも列車が曲線を通過する時には外側に向かって遠心力が働き、乗り心地が悪くなったり、外側の軌道に大きな力がかかるためその保守量が増えたり、 最悪では列車が外側に転覆する可能性も出てくるため、一般的には車体を傾ける代わりに外側のレールを内側よりも高くしています(振子電車は車体も傾ける)。これをカント、その大きさをカント量(通称、(実)カント=Cm)といっています。
  右図に示すように、カントのある曲線を走行中の車両について考えます。
  車体に働く遠心力(横向)と重力(垂直)の合力のレール面上の作用点をDとすると、Dが左右レールの中央にあるときが一番安定性が高く、図のように速度が速くなってそれに伴い遠心力が大きくなり合力の作用点が外軌側に近づき、B点より右に達した時にB点の右回りの回転モーメントが左回りより大きくなるため転覆にいたります。
  限界状態ではB点のまわりのモーメントが0になることから、B点でのy、z座標方向のモーメントの釣り合いから

  福知山線の転覆事故の場合について計算してみます。
  207系電車の車両重心高さで公表されたものはないと思います。重心高さは車両種別毎に違っていると思われますが、一般に電車の車両重心高さ(空車で車体+台車)は車体床面上20cm前後といわれています。同じような車両でJR東日本の209系電車の先頭車(クハ208)の重心高さ(空車)はレール面上1,436mm(床面上286mm)となっているようで、hG=1.436mとして計算します。
  新聞等で報道された現地の曲線の条件である、軌間G=1.067m、実カントC=0.097m、曲線半径R=300m、g=9.8 m/sec2 を上式に代入すると限界速度Vcは
Vc=133 km/h
となります。
  実際の重心の位置は車両の走行に伴う動揺、車体・台車間のばね装置、乗客等によって変動しますが、ばね装置の変位によって重心は見かけ上15〜25%高くなるといわれており、25%増として再計算すると、限界速度は
Vc=122 km/h
まで低下します。
  今回最初に脱線した207系の先頭車は付随車であり、空車重量は32トン程度です。主電動機がない分台車が軽く、更に運転台が左側に付いているため輪重アンバランス管理は行っていたとは思いますが、先頭車前側は重心が電動車や空車状態より高くかつ外側に寄り勝手な傾向があったかもしれません。
  また、空車の重心高さは床面上300mm弱なので、特に立位(重心はへその少し下)の乗客が多ければそれだけ重心の位置が上がります。
  更に、直線と円曲線を円滑に接続するためにその間に挿入される緩和曲線にはカント直線逓減、3次放物線曲線が使われており、その入出口ではカントや曲率が不連続になるためもともと列車の動揺を起こしやすく、重心位置や乗客の存在が動揺の大きさにどう影響を与えたか等の評価も必要と思われます。
  詳細については後に紹介しますが、現場の曲線は、半径300m、速度70km/h制限で、このときの均衡カントは((V/3.6)2/gR)・G=137mmとなり、設定カントCd=97mmですから、40mmのカント不足の状態でした。また、緩和曲線は60mで、実カント97mm、カント不足40mmのですから、緩和曲線を求める式は、L1=0.618C、L2=0.0088CmV、L3=0.0214CdVとなります。旧普通鉄道構造規則・告示では、 曲線の最高列車速度をV(km/h)として次のように規定されており、これらの数字については正規の速度で走っていれば問題のない数字です。
緩和曲線長最高速度75km/hを超える区間その他の区間
L10.6Cm0.4Cm
L20.008Cm・V0.007Cm・V
L30.009Cd・V0.009Cd・V


(2) 転覆の一般式

  上の例は、車両の動揺や風の影響を考慮していない単純な力のバランスから求めたものですが、東海道新幹線の建設時に曲線走行時における転覆限界風速と走行速度及び車両の高さとの関係について検討されました。その時の検討内容は概ね次のようなものでしたが、着席定位で計画された新幹線のためか乗客は考慮していません。

ア、東海道新幹線検討時の一般式
  車体、台車に作用する重力、遠心力は図に示すとおりで、更に、車体側面に垂直な横風が吹きつけたとしてその風圧力をYw、走行中に車体が振動しているとしてその慣性力をYv、重心と風圧中心との差による車体の重心のまわりのモーメントをMとします。ただし、台車への風圧力は無視します。
  座標は、Yは走行面と並行、Zは垂直、Mは反時計まわりを正とし、各変数等の意味は図中のとおりです。



  図から、各座標方向の力は

  車体は台車からバネで支えられているため、力を受けると変位しますが、YとMを受けた場合の横変位量を y とすると、

で表され、ともに台車のバネ装置によって決まります。
  風圧力および振動による慣性力は次のようになります。

  ここで、車両重心の合力の作用点が軌間中心から x 離れたX点にある場合を考えます。
  X点のまわりのモーメントが0になることから、次式が成立ちます。

  この式に(1)〜(4)までの式を代入しますが、θ は小さいので、

と置きます。
  これらから、次の式を得ます。

ここで
   μ = WT/WB と置き、更に、変数の定義から

となります。
  また、車体はばね装置によって支えられており、それらの影響を考慮し、

と置きます。hG'、hBC'は、台車のばね装置の効果を考慮した場合の車両重心高さと車体風圧中心高さの有効高さを表します。

  これらを代入して x が求められますが、転覆の危険度をDとすると、D=x/(G/2) から、

  D=1が外側転覆限界で、B点の回りのモーメンは0になります。
  内側に転覆する場合は、右辺の第2、3項の+を−にしてD=−1が限界になります。
  (11)式を変形して転覆の限界風速は
となります。
  また、風速 0 として v について求めると、風を無視した時の外側転覆の限界速度は

となります。
  走行中の横振動(主としてローリング)の振動加速度については、当時の車両の走行振動試験の結果から車体の重心位置において次のように仮定します。

  後述しますが、以上の式を使って計算して東海道新幹線の曲線通過時の安全性について確認されました。

イ、福知山線の場合
  以上の式から、207系の先頭車の車両重量26000kg、付随台車の重量4800kg、hG'は車両重心高さ1.436mの25%増し、台車重心高さ0.48mと仮定し、更に走行中の振動による横方向振動加速度0.1Gとして計算してみると、
Vc=107km/h

まで低下してしまいます。
  東海道新幹線の検討時では、横方向振動加速度0.1Gはかなり安全を見たもので、速度は100km/h以下ではあるものの実測地最大が0.05G程度であったので、この値を使ってみると
Vc=114km/h
となりました。
  このように、仮定は入っているものの、バネ装置により重心の高さが高くなることや列車の動揺を想定すると転覆の限界速度が110km/h程度まで低下してしまいます。
  更に、乗客を含めた直線120km/h走行時や曲線入口での車体の動揺、車両の重心等の諸元、地上側での曲線の狂いの有無と動揺との関係等についての検討が必要と思われますが、高速で曲線を通過する怖さを再認識しなければならないと思います。

2. 曲線の制限速度、カント、緩和曲線との関係

  日本のように山の多い狭い国土、人口密集地では急曲線無しで線路を引くことは困難で、その曲線をなるべく速い速度で安全に通過するために昔から苦労していました。平成14年3月31日からが施行された「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」では、曲線関係については次のように規定しています。

(線路線形)
  第十三条 本線の曲線半径及びこう配は、設計最高速度、設計牽引重量等を考慮し、鉄道輸送の高速性及び大量性を確保することができるものでなければならない。ただし、地形上等の理由によりやむを得ない場合は、この限りでない。

(曲線半径)
  第十四条 曲線半径は、車両の曲線通過性能、運転速度等を考慮し、車両の安全な走行に支障を及ぼすおそれのないものでなければならない。
2 プラットホームに沿う本線の曲線半径は、できる限り大きなものとしなければならない。

(カント)
  第十五条 円曲線には、車両が受ける遠心力、風の影響等を考慮し、車両の転覆の危険が生じないよう、軌間、曲線半径、運転速度等に応じたカントを付けなければならない。ただし、分岐内曲線、その前後の曲線(以下「分岐附帯曲線」という。)、側線その他のカントを付けることが困難な箇所であって運転速度の制限その他の車両の転覆の危険が生じるおそれのない措置を講じた場合は、この限りでない。
2 カントは、円曲線のカント量、運転速度、車両の構造等を考慮して、車両の安全な走行に支障を及ぼすおそれのないよう、相当の長さにおいて逓減しなければならない。

(スラック)
  第十六条 円曲線には、曲線半径、車両の固定軸距等を考慮し、軌道への過大な横圧を防止することができるスラックを付けなければならない。ただし、曲線半径が大きい場合、車両の固定軸距が短い場合その他の軌道への過大な横圧が生じるおそれのない場合は、この限りでない。
2 スラックは、車両の固定軸距等を考慮し、車両の安全な走行に支障をおよぼすおそれのないよう相当の長さにおいて逓減しなければならない。

(緩和曲線)
  第十七条 直線と円曲線との間及び二つの円曲線の間には、車両の構造、カント量、運転速度等を考慮し、車両の安全な走行に支障を及ぼすおそれのないよう、緩和曲線を挿入しなければならない。ただし、分岐附帯曲線、カント量が小さい円曲線その他の緩和曲線を挿入することが困難な箇所であって運転速度の制限、脱線を防止するための設備の設置その他の車両の安全な走行に支障を及ぼすおそれのない措置を講じた場合は、この限りでない。


(1) 線路線形

  第13条の「線路線形」は鉄道の特性を発揮するため基本的考え方であり、あまり具体的ではありませんが、
[解釈基準」では、
  「本線の曲線半径(分岐内曲線及びその前後の曲線(以下「分岐附帯曲線」という。)を除く。)及び本線のこう配は、車両の性能等を考慮し、地形上等の理由のためやむを得ない場合を除き、それぞれ当該線区の設計最高速度のおおむね80%以上を達成できるものとすること。ただし、機関車けん引線路における本線のこう配は、機関車の性能等を考慮し、当該線区の設計けん引重量をけん引できるものとすること。 」

となっています。
  高速性能確保のための曲線半径は、旧構造規則(省令)では次のように規定しており、ここで示していた曲線半径が80%程度に近い速度を保持できることを想定していました。

[普通鉄道]
設計最高速度110km/hを超える速度90km/hを超え110km/h以下の速度70km/hを超え90km/h以下の速度70km/h以下の速度
最少曲線半径600m400m250m160m

[新幹線]
  本線における最少曲線半径は、2500m。

  新幹線は、山陽新幹線以降実質的には4000m以上を確保することとしています。


(2) 曲線半径

  第14条の「曲線半径」は車両の安全な走行に支障しない曲線半径を定めたもので、
[解釈基準」では、
  「普通鉄道(新幹線及び軌間0.762mの鉄道を除く。)の曲線半径は、160m以上とする。新幹線の曲線半径は、400m以上とする。」

としています。
  これは、最少曲線半径に相当するもので、実際に用いられる曲線半径はこの数値以上であり、その大きさに応じて制限速度を決めないで高速で走行すると転覆してしまいます。旧国鉄では「運転取扱基準規程」によって規程していましたが、それが通称「本則」といわれるものです。

ア、「本則」の考え方
  軌道面がカント0の水平と仮定して、半径R(m)の曲線線路を速度 V(km/s)で走行する列車を考えると、列車には曲線の外側方向に (V/3.6)2/R(m/sec2)の遠心加速度が働きます。
 線路の軌間をG(m)、軌道面から車両重心までの高さをH(m)、車両に対する遠心力と重力との合力の軌道中心からの離れをD(m)、重力の加速度を G(m/sec2)とし、安全率 aを軌間の半分とDとの比(2/G)/D=G/2Dで定義します。
  この時、図からも分かるように、(V/3.6)2/gR = D/H なので、V2=127G・R/(2a・H)となります。
  在来線(G=1.067m)で最も重心の高い車両のH=1.65mについて計算すると、

となります。
  a=1以下で合力の作用点がA点の外側になり転覆に到りますが、旧国鉄の運転取扱基準規程120条(本則)では、安全率を車両の性能や線路の状況を勘案して

のように定めて曲線での速度を制限しました。
  これらの式を基に曲線半径別に5km/h刻みで定めたものが、いわゆる「本則」といわれているもので、下の表のようになっています。曲線半径が800m以上でも制限速度が95km/hで抑えられています。
  実際には曲線にはカントが付いているのでカントを考慮した計算が必要で、「本則」は一応の目安となっています。
  先ほどの式をカント量で表すと、高性能列車ではCm+Cd=115mm、一般列車ではCm+Cd=105mmに相当します。
  なお、計算上は、最大カントと最大カント不足を足し合わせたカントCm+Cd=105+70 の線が通常の優等列車の最大制限速度であり、Cd=110とした線は振子電車での最大制限速度になります。



(曲線における制限速度:本則)
曲線半径(m)線路の分岐に接続しない曲線の場合線路の分岐に接続する曲線の場合
気動車列車及び別に指定する電車列車その他の列車
簡易線以外の線区簡易線簡易線以外の線区簡易線簡易線以外の線区簡易線
1600以上----95km/h-
1400〃----90〃-
1200〃----85〃-
1000〃----80〃-
800〃95km/h-95km/h65km/h75〃-
700〃95〃-90〃60〃70〃-
600〃90〃-85〃60〃65〃45km/h
500〃85〃-80〃55〃60〃40〃
450〃80〃-75〃55〃55〃40〃
400〃75〃65km/h70〃50〃55〃35〃
350〃70〃60〃65〃50〃50〃35〃
300〃65〃60〃60〃45〃50〃30〃
250〃60〃50〃55〃45〃45〃30〃
225〃55〃45〃50〃40〃45〃25〃
200〃50〃45〃50〃35〃40〃25〃
175〃45〃40〃45〃35〃40〃20〃
150〃40〃35〃40〃30〃35〃20〃
125〃35〃25〃35〃25〃30〃20〃
100〃30〃25〃30〃20〃25〃15〃
100未満25〃20〃25〃15〃20〃15〃

  本則では、曲線半径が800m以上でも制限速度が95km/hで抑えられていましたが、第121条では指定する線路及び区間については列車最高速度を120km/hとし、曲線半径別の制限速度は前出の図の青い線のようにしており、曲線半径別制限速度は下表のとおりです。
  本則では、曲線半径800m以上でも列車速度が95km/hとなっているため、それ以上の曲線は曲線半径別に95km/hに均衡するカント量を計算し、この70%(同一速度列車のみが走る線区では90%)を設定カントと緩和曲線長を求めるカント量としていたため、実際に設定されているカントと緩和曲線長が短いために曲線半径が大きくなっても120km/h程度に制限されてしまい、曲線速度向上の一つの制約になっています。 
  勿論、車両性能とブレーキ距離600mの規制が有り、その点からは直線でも130km/hが最大速度といわれています。踏切がない場合は160km/h運転も行われています。
曲線半径(m)線路の分岐に接続しない曲線の場合線路の分岐に接続する曲線の場合
2600以上--
2200〃--
1800〃--
1600〃120km/h95km/h
1400〃115〃90〃
1200〃110〃85〃
1000〃105〃80〃
800〃100〃75〃
700〃95〃70〃
600〃90〃65〃
以下、本則と同一

イ、各鉄道事業車の考え方
  各鉄道事業者は曲線及び分岐器について、線区毎の列車種類別最高速度、列車の曲線、分岐器、下り勾配における制限速度を定めており、たとえば曲線における制限速度(基本の速度)は次のようになっています。
  基本の速度ア〜コは、線区名、区間、適用列車(形式)毎に指定しており、キ以上は車体傾斜装置を使用する列車に適用しているようです。
曲線半径(m)
2200以上-130130130130130130130130130
 1800〃2200未満-125130130130130130130130130
1600〃1800〃-120125130130130130130130130
1400〃1600〃-115120125130130130130130130
1200〃1400〃-110115120125130125130130130
1000〃1200〃-105110115120130120125125130
 800〃1000〃95100105110115125115120120125
700〃 800〃9095l00105110120110115115120
600〃 700〃859095100105110105110110115
500〃 600〃80859095100100100105105110
450〃 500〃75808590959595100100105
400〃 450〃707580859090909595100
350〃 400〃65707580858585859090
300〃 350〃60657075757580808085
250〃 300〃55606570707075757575
225〃 250〃50556065656570707075
200〃 225〃50505560606065656570
175〃 200〃45455055555560606065
150〃 175〃40404550505055555560
125〃 150〃35354045454550505055
100〃 125〃30303540404045454550


(3) カント

  第15条の「カント」は、円曲線にはカントを設け、相当の長さで逓減することとしており、
[解釈基準」では、

  「鋼索鉄道以外の鉄道の円曲線に付けるカントは、走行中に車両が受ける遠心力を考慮し、次の基準に適合するものであること。ただし、軌間に応じて車両の重心が高い場合、車両が軽量である場合等には、車両の停止中及び曲線の制限速度で走行中の風の影響による車両転覆に対する安全性を確認すること。
(1) 普通鉄道のカントは、次の式により計算して得た数値を標準とする。ただし、分岐附帯曲線等の場合であって、運転速度を制限すること等により車両の転覆の危険がないことを確かめた場合にあっては、この限りではない。
 C=GV2/127R
  この式において、C、G、X、Rはそれぞれ次の数値を表すものとする。
 C:カント(単位:mm)
G:軌間(単位:m)
X:当該曲線を走行する列車の平均速度(単位:km/h)
R:曲線半径(単位:m)

  この場合において、カントは次の式により計算して得た数値以下とする。
 C=G2/6H
  この式において、Hは次の数値を表すものとする。
 H:レール面より車両の重心までの高さ(単位:mm)

(2) 特殊鉄道(無軌条電車及び鋼索鉄道を除く。)のカントは、次のとおりとする。
(省略)

(3) 鋼索鉄道以外の鉄道のカントは、次の基準により逓減すること。
  @ 緩和曲線のある場合はその全長とする。
  A、B、C (省略)」

となっています。
    右図のように、カントの付いた曲線を走行中の場合、遠心力と重力の合力が軌道の中心に向いた時が最も安定しており、床面に直角に作用するため乗客も遠心力を感じません。このときの速度を均衡速度、カント量を均衡カントといい、C=GsinθGtanθ=(V/3.6)2/gRから求められます。
  (1)の最初の式は均衡カントの式であり、実際のカントを付ける場合の計算式で、一般に複数の列車種別が同一線を走行するため速度は平均速度としており、より高速で走行する車両ではカントが不足するため外側に遠心力を感じることになります。
  これをカント不足といい、乗り心地の悪化や走行安全性にも関係するため許容カント不足量の制限が必要です。
  2番目の式は、カントがあまり大きくなると停止時に内側に転覆する危険性が大きくなるため、限度を設けたものです。
  この式の根拠は、いま、右図下のように、安全率 aを軌間の半分と合力の作用点の軌間中心からの離れDとの比(G/2)/D=G/2Dで定義すると、曲線上で停止している状態で車体の内軌側転倒に対する安全率を3、即ち重力の作用点を軌間の1/6以内に取ることとされ、最大カント量をCmaxとすると、
   H:G/6=G:Cmax
から、
    Cmax = G2/6H

となるわけです。
  この式は旧国鉄在来線で使われていた式で、軌間と車両重心高さとの関数になりますが、最高重心高さの1700mm(蒸気機関車のC62形式の1695mmを切上)を前提として計算すると、112mmとなりますが、やや安全を見てカントの最大値は
    Cmax =105mm
としていました。
  従って、重心高さがこれ未満の車両についてはより安全となります。たとえば、在来特急の485系ではH=1300mm(重心高さ)×1.25(ばねの影響を見込んだ割増係数)から、117mmまでカントがあっても同じ安全率となり、余裕があることになります。
  なお、この安全率は横風の影響を考慮したものではなく、必ずしも十分なものではありませんでしたが風速による速度制限を行なうことで対応してきました。
  新しい技術基準では、上記のように横風の影響も照査することになりましたが、計算は前述の一般式を用いて行うことになります。

ア、カント不足量
  カント不足量(Cd)とは前述のようにその曲線を均衡速度以上の速度で走る場合に、その速度で必要な均衡カントと実際に設定されているカント(設定カントCm)との差のことで、超過遠心加速度と同じ意味にもなります。
  福知山線の例では、半径300mの曲線を制限速度70km/hで走行したとすると、均衡カントは137mmとなります。カントの設定可能最大値は105mmですが、実際に付いていたカントは97mmですから、40mmのカント不足の状態で走行していたことになります。
  このときに受ける超過遠心加速度はαは、α=Cd/Gで表され、この時、40/1067=0.037gの超過遠心力を受けることになります。
  カント不足量に関しては省令で具体的な計算方法は記載されていませんが、鉄道事業者は走行安全性、乗り心地、軌道破壊に関係するため一定の限界を設けています。
  旧国鉄では次のように定めていたため、各JRはこれに準じて規定しています。

(ア) 安全率による検討
  超過遠心力による曲線外方への転倒を考慮し、安全率を4、すなわち重力の作用点を軌間の1/8以下になるように考えます。H=1700mmでは84mm、代表的な特急485系で計算すると87mmとなります。

(イ) 曲線通過時の走行安全性、乗り心地による検討
  曲線通過時に外側に向かって風圧を受けた場合の外側転覆の危険性を車両動揺による見かけの重心高さの変化などを考慮して検討すると、Cd=60mmとしても実用速度範囲で電車、気動車に対しては、瞬間最大風速38m程度に対して十分安全ですが、空気ばねで重心が高い客車ではあまり余裕がない状態でした。
  また、曲線通過時の左右の定常加速度の乗り心地から見ると、過去の試験結果や諸外国の例から実用上は0.08Gを目安としており、Cd=G・α から、在来線では 1067×α(0.08)=85.4mmとなりますが、動揺、ばねのたわみなどを考慮すると乗り心地上からは60〜70mm程度が限度と考えられました。
  従って、総合的に判断して
  一般列車Cdmax=50mm、電車・ディーゼル動車Cdmax=60mm
としていました。
  その後,、優等列車について見直しが図られ、1985年5月の中央東線の183系特急電車による試験の結果、車内で計測した左右定常加速度はばねの影響を考慮しないで計算した超過遠心力に対して20%程度大きくなっていたため、現在では上記の乗り心地から計算した値(85mm)に車体傾斜係数の2割の余裕を見て、特急に対して70mmを許容することにしました。70mm/1067mm×(1+0.2)=0.079G≦0.08Gとなります。
  以上から、
    一般の電車、気動車 Cdmax=60mm
    特急に対して  Cdmax=70mm
    振子特急に対して Cdmax=110mm
としています。

イ、新幹線
  新幹線も[解釈基準]の考え方でカントを設けることになりますが、東海道新幹線の建設時には国鉄の「新幹線建設基準調査委員会」の第4回委員会等で曲線半径と速度及びカントとの関係を車両の転倒に対する安定性並びに乗り心地の面と、更に台風時の危険側からの風に対する安全性についても検討しており、参考までに紹介します。
  なお、曲線半径については前段の幹線調査会において、2,500mと一応決定されていました。
  新幹線の均衡カントを求める計算式は、速度V(km/h)、曲線半径R(m)、左右レール接触面間距離G=1500mmとして、(V/3.6)2/gR=C/Gから、
  C=11.8V2/R
となります。
  半径2500mの曲線を当時の計画最高速度250km/hで走行する場合の均衡カントC(=Cm+Cd)はこの式から295mm(C/G=0.197)となります。この数字が乗り心地や車両転覆に対して安全かどうかが検討されました。
  乗心地上のCd/Gの限度は、日本の在来車両の実績から、0.09位だったので、Cd/G≒0.09〜0.07とすればCm/G≒0.11〜0.13となります。そこで、Cm/Gの限度について一応0.13(Cm=195)としてみて、安全性や乗り心地等について検討しました。
  その結果、曲線上で停車中に横風があった場合は計算上40m/sまで安全なこと等が判明しましたが、車両が走行中には車体が左右に振動するため、風圧による転覆限界速度は停止中よりも低下することが予想され、この影響を評価するため、曲線における走行速度と転覆限界風速との関係等を検討しました。
   その際に作成されたのが前に紹介した一般式であり、hG'、hBC'は(10)式で与えられますが、従来車の数値から推定してhG、hBCの25%増しとし、走行中の横振動(主としてローリング)による車体重心位置の振動加速度については、在来線の車両の走行振動試験の結果から車体の重心位置において次のように仮定しました。
走行速度

  左右振動加速度の許容限界(αH)を0.1としていますが、これは東海道線金谷・浜松間におけるナハ10形客車の試験実績を参考として0.1としたもので、実測値によると0.08程度でもよいと思われましたが、一応安全側をとって0.1としたものです。

  (12)式に従って走行速度と転覆限界風速の関係を求めると、右図のようになります。
  図によれば、車両の転倒に対する限界風速は停止時で約40m/s、走行中の場合、内側転倒の最低風速は速度80km/hの時の約35.4m/s、外側転倒の場合は速度250km/hにおいては約38.5m/sとなっています。
  停止時や高速運転時に較べ、80km/h程度の低速運転時が最も危険となっていますが、これは車体の左右振動が80km/h程度で最高となり、それ以上は一定であり、左右振動による内側方向への重心の偏倚量が、80km/h程度の速度における遠心力による外側方向への偏倚量より多いためです。これ以上の速度になると遠心力が増えて外側方向への重心の偏倚量が大きくなるので安定度が増加し、カントの均衡速度(203.1km/h)以上になると、カント不足となり、外側への転倒の危険度が増してゆくことになります。
  当時の在来車両の転倒限界風速は、停止中でナハ10形客車約31m/s、スハ43形客車約36m/s、キハ45000形気動車約43m/sとなっています。
  新幹線の場合、走行中の振動加速度を加味すると、許容限界風速は走行中において35.4m/sとなります。この数値はαH=0.1とした場合であり、αH=0.08程度でも充分なこと、高速運転における振動条件に疑問はありますが、新幹線においては車両、線路等に技術の飛躍的進歩が期待されること、又、従来車両の限界風速は停止中のもので走行中は更に下廻ると考えられることから、Cm/G=0.13、Cd/G=0.067程度を認めても、在来線の客車程度以上の安全度は期待できるとしました。
  なお、東海道沿線における台風の実績は当時の気象庁統計によれば、8年間で最大瞬間風速25m以上のものは3回であり、年平均0.4日となり非常に少いとしています。

  曲線においては、その均衡速度以下で走る場合は曲線内方へ転覆する方が危険で、この場合の転覆限界風速は80km/h付近の走行速度で最低となっています。また、それ以上で走る場合は曲線外方へ転覆する方が危険となり、超過速度が約50〜70km/hを超すと内方転覆最低速度より下回り、それより高速では急激に減少することがわかります。以上から、
・ 最大設定カント量Cm/G=0.13は安全上従来車並ですが、乗心地上不快感をあたえることが予想され、0.12程度にしたいとの意見が有りましたが、車体重心高さを低くすること、台車のバネ装置を考慮することにより、ある軽度まで改良する事は可能であり、又、曲線中に停車するチャンスは非常に少い事から、Cm=195mmの決定を妨げるものではない。
・ 横方向加速度の大きさは、Cd/G=0.07程度であり乗心地上の横加速度の限界値0.1以内に入り問題はない。
とされ、

  「本線路における標準曲線半径は特別な場合を除き2,500mとし、許容最大実カント量は195mmで、カント不足を認める事により、曲線において速度制限をしない」

とされました。なお、第12回委員会において、Cm=195mmと200mmとの差によって生じる車両の転倒限界風速は殆んど変りがないことから、許容最大実力ント量については端数整理をして切りよい数値の 200mmを採用することとなりました。
  カント不足量は、設定カント量200mm、カント不足量100mmとして外側転覆風速を計算すると約38m/sであり、内側転覆速度と大体見合うことになり、Cd/G=0.067は乗心地上の横加速度の限界値0.1以内であるので、100mmとすることになりました。

  理論的には、Cm=200mm、Cd=100mmと決められましたが、計画最高速度が200km/hになったことや計算に乗らない外力や軌道条件等を考慮して余裕を見て実用上の最大カント量は180mmに、最大カント不足量は60mmで計画することになりました。
その結果、東海道新幹線の曲線許容通過速度は次の表のように決められました(一部)。
曲線半径
R(m)
最高許容速度
Vmax(km/h)
ATC速度
Vatc(km/h)
設定カント量
Cm(mm)
カント不足量Cd(mm)
Vmaxに対しVatcに対し
400907018060-36
6001101101806058
80012711018060-2
100014311018060-37
1500175161806021
20002002001805680
2500200200180928
3000200200150723
4000200200110820
600020020070916
1000020020040712

  その後、新幹線でも車体傾斜係数0.3として、許容カント不足量は60mmから90mmに緩和されました。
  更に、東海道新幹線で実施された300系による乗り心地試験で、新幹線では立位の乗客に対しても0.093g程度まで許容できることが示され、「のぞみ」に限りカント不足量110mmを許容することにより、半径2500mの曲線通過速度255km/hが可能としました。
  左右定常加速度=110mm/1500mm×(1+0.25)=0.092g≦0.093g
となります。


(4) スラック

  第16条の「スラック」は、曲線上の車輪の通過を円滑にするために軌間を拡大するもので、主に急曲線が対象で、曲線の外側レールを基準として曲線内方に曲線半径と走行する車両の最大固定軸距に応じて設けます。
  説明については省略します。


(5) 緩和曲線

  直線のレールは平面ですが、円曲線にはカントが付いていま。そのままつなぐとカントのない直線と曲線の外側レール面とに段差ができるため、直線と円曲線の間にはレール面に勾配が付き、曲率が直線から円曲線までに滑らかに変化してゆく区間が必要で、この区間に用いる特別の曲線を緩和曲線といいます。
  この曲線の長さは走行安全性、乗り心地等に関係し、また、この長さによって曲線通過速度が制限されることもあり、一度設置してしまうと後からの変更が難しいため、新たに設ける場合には将来の速度向上等を十分考慮して決める必要があります。なお、普通5mm未満の端数は切り上げて5mの整数倍とします。

  第16条の「緩和曲線」は、車両の安全な走行に支障しない緩和曲線長を定めたもので、一般的に最低の基準であって各鉄道事業者は更に乗り心地を考慮したより長い緩和曲線長を定めています。
[解釈基準」では、
  「緩和曲線は、当該緩和曲線を走行する車両の固定軸距等に応じ、次の基準に適合するものであること。
(1) 緩和曲線の長さは、次のとおりとし、列車の運転速度を考慮すること。ただし、分岐附帯曲線、カント量が小さい円曲線等であって、運転速度を制限することにより、車両の走行安全性を確保できることを確かめた場合はこれによらないことができる。

 @ 普通鉄道(新幹線を除く。)の緩和曲線の長さは、次の式により計算して得た数値以上とする。
  (ア)当該曲線を走行する車両の最大固定軸距が2.5mを超える区間
  L=400Cm
 (イ)当該曲線を走行する車両の最大固定軸距が2.5m以下の区間
  L=300Cm
  この式において、L、Cmはそれぞれ次の数値を表すものとする。
  L:緩和曲線の長さ(単位:m)
  Cm:実カント(2つの円曲線の間に緩和曲線を挿入する場合は、それぞれの実カントの差。単位:m)
 この場合において、当該逓減を曲線逓減とする場合は、当該曲線を走行する車両の最大固定軸距が2.5mを超える区間では、カントの最急こう配が400分の1、それ以外の区間では、300分の1となる緩和曲線長とする。
 A 新幹線の緩和曲線の長さは、次の式により計算して得た数値以上とする。
  (ア)当該曲線を走行する列車の最高速度が200km/h未満の区間
  L=300Cm
 (イ)当該曲線を走行する列車の最高速度が200km/h以上の区間
  L=450Cm
  この式において、L、Cmはそれぞれ次の数値を表すものとする。
  L:緩和曲線の長さ(単位:m)
  Cm:実カント(2つの円曲線の間に緩和曲線を挿入する場合は、それぞれの実カントの差。単位:m)
 この場合において、当該逓減を曲線逓減とする場合は、当該曲線を走行する車両の最大固定軸距が2.5mを超える区間では、カントの最急こう配が400分の1、それ以外の区間では、300分の1となる緩和曲線長とする。

 
B @及びAの規定にかかわらず、普通鉄道(貨物列車を除く。)における出口側の緩和曲線については、次の式により計算して得た数値が1.2を超える場合又は1.2を下回るが当該緩和曲線に脱線防止ガード等を設置した場合は、当該車両の曲線通過性能に応じた緩和曲線長とすることができる。
  推定脱線係数比=限界脱線係数/推定脱線係数
 C懸垂式、D跨座式他、E浮上式 (省略)

のように規定しています。

ア、緩和曲線の形状
  緩和曲線は、直線との接続点においては曲率が0、円曲線と野接続点では1/Rへと滑らかに変化するようにしますが、この間を直線的に変化させる方法(直線てい減)を採用したものが「3次放物線(曲率が x軸上の長さ x に比例)」、「クロソイド曲線(曲率が緩和曲線上の長さ l に比例)」であり、曲線的に変化させる方法(曲線てい減)を採用したのが「サイン半波長」で、主に3次放物線とサイン半波長が使われています。

(ア)3次放物線
  曲率、カントを直線逓減する最も一般的な緩和曲線で、在来線に多く用いられています。緩和曲線長L(m)、X:Lのx軸長(m)、R:円曲線部の曲線半径(m)、C:円曲線部のカント(m)とすると、各部の寸法等は次の図のようになります。
  このような直線低減方法では始終端の曲率とカントの不連続性から高速走行時には車両の動揺が発生しやすくなります。


(イ) サイン半波長
  曲率、カントをサイン半波長逓減すると始終端が連続となり、車両の動揺の発生を抑えることが可能で、新幹線に使われています。敷設や保守に手間がかかるといわれていましたが、技術が進み、高規格の在来線の一部に用いられています。


(ウ) 直線逓減とサイン半波長逓減の比較
  サイン半波長緩和曲線は緩和曲線の始終点で曲率とカントの変化が連続になりますが、曲率やカントのシフト量を同一とした場合、3次放物線緩和曲線の1.33倍の緩和曲線長が必要となり、カント勾配の最大値は1.18倍になります。つまり、緩和曲線長を同一とした場合、サイン半波長緩和曲線のカント勾配の最大値は3次放物線緩和曲線の1.57倍となり、カント勾配の最大値を同一にするには、サイン半波長緩和曲線では1.57倍の緩和曲線長が必要ということになります。
 また、推定脱線係数比の試算結果からは、軌道面のねじれによる輪重減少の点からカントを曲線逓減している場合には、カント勾配の最大値が直線逓減の場合と同じようになる緩和曲線長を確保することが安全性から望ましいことが分かりました。
  従って、新幹線を除く普通鉄道で、カントを曲線逓減している場合の緩和曲線長は、「カントの最急勾配が1/300以下となる延長」(軸距2.5m超過の車両が走行する線区ではカントの最急勾配が1/400以下となる延長)とされました。

イ、緩和曲線の長さ

(ア) 普通鉄道
  緩和曲線の長さを決める要素としては次の3点が有ります。
緩和曲線長規制内容 考  え  方
L1軌道面のねじれ率の規制主として固定軸距4.6mの2軸車の3点支持浮き上がりによる脱線事故等から決められたもので、緩和曲線の中で車両が3点支持になることによる輪重抜け、乗り上がり脱線を防ぐため、カント勾配を1/400(L1=400・Cm以上)以下とするようにしています。これによって速度制限を受けることはまずありません。
L2カントの時間変化率の規制車体の傾斜速度(ロール角速度)が乗り心地に影響することを考慮しています。
旧国鉄では、変化率を1、2級線:毎秒29mm、3級線:毎秒35mm、4級線:毎秒40mmとしており、たとえば毎秒29mmの場合の緩和曲線長は、(V/3.6)*(C/29)=0.01CVとなります。
L3カント不足量の時間変化率の規制緩和曲線を高速で走る場合、超過遠心加速度(カント不足)が働きますが、この時間変化率が乗り心地に影響を与えることを考慮しています。
旧国鉄では、線路等級に関係なく、0.030g/secを採用し、(V/3.6)*(Cd*g)/(G*0.03g)から0.009Cd・Vを基本としていました。

  旧国鉄では、外国の例や走行試験から在来線については次のように定めていました。
緩和曲線長1級線2級線3級線4級線地形上やむを得ない場合
L11.0Cm0.8Cm0.6Cm0.4Cm0.4Cm
L20.01Cm・V0.008Cm・V0.007Cm・V0.007Cm・V
L30.009Cd・V0.007Cd・V
単位 L:緩和曲線長(m) Cm:実カント(mm) Cd:カント不足量(mm) V:当該曲線を走行する列車の最高速度(km/h)

  更に、国鉄の民営化を控えた時期に、優等列車の曲線通過速度を向上する検討が行なわれ、乗り心地から見た車両のロール角速度の限度値は381系制御付き振子電車による試験の結果、5°/secであり、カントの時間的変化割合29mm/sec(L2=0.01Cm・V)を適用する場合のロール角速度は1.5°/secですが、実測値は2.5°/sec程度であったため、このような車両の場合の限度値を(5/2.5)*1.5=3°/secとし、これから、曲線通過速度を向上する場合にはロール角速度が5°/sec以下の車両についてはL2=0.005Cm・Vを適用することが可能としました。

  その後、普通鉄道構造規則・告示では、これらの考え方を取り入れ、次のように定めました。
緩和曲線長最高速度75km/hを超える区間その他の区間
L10.6Cm0.4Cm
L20.008KCm・V0.007KCm・V
L30.009KCd・V0.009KCd・V
Kは、軌間0.762で1.4、軌間1.067で1.0、軌間1.372で0.78、軌間1.435で0.75
V   L2を計算する場合は、旅客車以外の車両又は車両の回転角速度が5°/sec以下の車両があるときは、当該車両以外の列車の最高速度(km/h)、L3を計算する場合は、旅客車以外の車両又は車両に加わる超過遠心力の変化割合が0.05G/sec以下の車両があるときは、当該車両以外の列車の最高速度(km/h)、その他の場合は、当該曲線を走行する列車の最高速度(km/h)


  地形上等のためやむを得ない場合は、更に短くできるようにしていますが、それでもL1の最低値は0.3Cmとしています。
  解釈基準の数値はこれらの実績に加え、輪重、横圧、脱線係数、推定脱線係数比と緩和曲線長やカント逓減倍率等の関係をシミュレーションして安全性を確認したもので、乗り心地を考慮した緩和曲線長については各鉄道事業者が線区の状況に応じたカントの時間変化率(L2)、カント不足量の時間変化率(L3)を設定すればそれに応じた緩和曲線長を設定できることになっており、旧普通鉄道構造規則・告示に準じて決めている例が一般的です。

(イ) 新幹線
  東海道新幹線の建設時には、本線路の緩和曲線の長さは乗り心地の面から求めれば安全上は問題ないということから、英国で望ましいとされている値や国鉄等の実験結果を参考に、次式により算定してその大きい方によることとしました。
緩和曲線長規制内容計算式
L1カント不足量の時間的変化割合の限度(0.025g)7.5Cd・V
L2設定カントの時間的変化割合の限度(45mm/sec)6.2Cm・V
ただし、
V:最高速度(km/h)
Cd:カント不足量(mm)
Cm:カント量(mm)
  この場合、緩和曲線長を決定する場合に想定する実カント量Cmは、速度220km/hに対する均衡カント量としています。但し、実カント量の最大値は200mmとし、上記均衡カント量がこれを越す場合のみカント不足量Cdを考えるものとし、カント不足量の最大値は100mmです。
  路盤工事時点では3次放物線でカントの逓減は直線逓減としていましたが、軌道工事の段階でサイン半波長逓減曲線に変更することになり、3次放物線と同じシフト量とするため緩和曲線長を1.33倍して敷設しました。
  更に、山陽新幹線以降は、サイン半波長逓減曲線では曲線中央部で前述のようにカントの変化割合が直線逓減より大きくなるため乗り心地の低下を考慮して上表の値の1.57倍の長さを採用し、本線では原則として
    L1=11.7Cd・V
    L2=9.7Cm・V
  安全の面から定まるL3は
    L3=1000Cm
を採用しています。

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